SaaSの米国展開の秘訣は◯◯◯◯◯性?サイボウズ社kintoneの海外展開戦略を考察!
▲2017年度から展開されたkintoneのクリエイティブ。オフィス街を中心に見かけた方も多いだろう。
日本発のグループウェアSaaS企業の「サイボウズ」。サイボウズの展開サービスは?
「結果出せおじさん」と「早く帰れおじさん」との板挟みを痛切に表現した広告が話題になったサイボウズ社のkintone。サイボウズ社は現在、kintoneを始めとする業務支援ツールやグループウェアを提供している。今回は、サイボウズ社の主力サービスを整理し、海外展開戦略のために同社が行っている取り組みを概観する。
まずは、サイボウズ社の展開サービスを同社IR資料から整理する。サイボウズ社では、以下の5サービズを展開している。
それぞれのサービスの概略を簡単に紹介すると、以下の通りになる。
Kintone:コードを書かずに自社内で業務アプリ(交通費申請システム、契約書管理システムなど)を開発できるツール
サイボウズOffice&Garoon:掲示板・会議室管理・スケジュール管理などを可能にする社内グループウェア(kintoneと連携可)
メールワイズ:メール共有ツール・顧客管理ツール(kintoneと連携可)
Cybouzu Live ... 完全無料のグループウェア。
この中で、異色なのは「kintone」と「Cybouzu Live」であろうか。前者は、ノンプログラミングでアプリを簡単に作れるサービスであり、「スクラッチ開発するほど予算はないが、決まった範囲内で自社独自のサービスが欲しい」というニーズを捉えているものだと思われる。(WordPressのような感覚に近いだろうか。)
後者の「Cybouzu Live」は、簡易的なグループウェアであり、同サービスにはマネタイズポイントがない。あくまで、「Garoon」または「サイボウズOffice」導入へハードルを下げるための、フリーミアム戦略と捉えるべきであろう。
IR資料では、以上の製品別売上が開示されていないが、製品別の売上を推定することはできる。同社ホームページからシステム利用料を参照すると、サイボウズOfficeのクラウド版利用料金は月額500円・5ユーザー〜と記載されていたのに対し、Garoonのクラウド版利用料金は月額800円・300ユーザー〜とあった。
実際GaroonはサイボウズOfficeの1/10程度の導入社数しかないが、利用最低人数が100倍近く違うので、同社の売上の大半はGaroonによって占められていると推定できる。
また、サイボウズのトップページにはkintoneが大きく広告されており、GaroonやサイボウズOfficeには、kintoneとの連携機能が大きく打ち出されていた。既存のGaroon / サイボウズOfficeユーザーにとっては、ARPU向上のために毛並みが違うサービスのkintoneの利用を促しているのだと推測できよう。
サイボウズ社の売上推移
サイボウズ社のビジネスモデルは2012年から「パッケージ販売」から「クラウド利用料の販売」と大きく変化した。同社のビジネスモデルがサブスクリプションと変化し、順調に売上が増加している。
なお、Adobe社のCreative Cloudが販売開始したのも2012年であり、2012年はパッケージ販売型企業にとってビジネスモデル変革の年だったのかもしれない。
さて、同社が展開する5サービスの中のポジショニングを整理しよう。今回は、「ターゲットユーザー」と「カスタマイズ性」という軸で、以下のように整理した。
「カスタマイズ性」とは、各ソフトウェアのカスタマイズやAPI連携機能の利便性を示している。kintoneはプロダクト自体がカスタマイズを前提としているだけでなく、API連携やJavaScript/プラグインをサポートしている。Garoonは2017年5月からJavaScriptカスタマイズ・REST API・Webhookを機能のアップグレードを予定している。IR資料を参照すると、 同社では「kintone」「Garoon」を海外展開プロダクトとして位置づけており、ここからGaroonの2017年5月の機能アップデートは、海外展開を推し進めていくためのアップデートと思われる。
米国展開には「カスタマイズ性」が秘訣なのか?
同社では、米国展開に中力するにあたり、何故カスタマイズ性にこだわっているのか?以下のITサービス企業技術者数のデータを参照すると、米国と日本の技術者のあり方の違いが浮き彫りになってくる。
以上のように、アメリカは、ITサービス企業技術者(≒SIer)数の2倍以上のエンジニアがユーザー企業に在籍しているのである。日本は逆に、 ユーザー企業の技術者数の約3倍のエンジニアがITサービス企業(≒SI)に在籍している。ここから、アメリカは、様々な企業がサービスを内製化して開発する土壌にあると推測できる。実際、Slackというプログラマブル性の高いチャットツールがアメリカから急激に拡大したのも、以上のような背景があると言えよう。
以上のような背景から、kintoneやGaroonの米国展開を考えた時に、機能としてプログラマブルであること(=API開放...etc)が求められると考えられる。SaaSを海外展開、特に米国展開する際には「プログラマブルな形でカスタマイズ性を持つ」ことは必須要件ではないだろうか?